000236


2017年通期決算でロシュは前年1位のファイザーを抜き去りついに製薬会社売上世界一となった。
ロシュは売上だけでなく研究開発費も世界一。研究開発費は1兆円を超えている。

本社はスイスのバーゼルにあり同業のノバルティス本社もバーゼルにある。
両社はライン川沿いにありご近所さん

ロシュとノバルティスは物理的な距離だけでなく資本関係も近い。
筆頭株主は創業者一族ホフマン家が45%を保有しているが第二位株主はそのバルティスで33%保有

ロシュタワーはスイス国内で最も高層なビルだが更に高いタワーを併設予定。



概要(2017年)

過去5年間の株価の動き
5years


売上:533億CHF
研究開発費:104億CHF
営業利益:129億CHF
純利益:86億CHF
配当支払額:71億CHF

株価:216CHF
一株配当額:8.3CHF
配当利回り:3.84%



年間売上
売上



営業利益
営業


純利益
0002363


ロシュの事業内訳

製薬と診断

ロシュは製薬部門と診断部門の2つを持っている。
製薬部門と比較すると診断部門が小さく見えるが診断部門単体でも売上は1兆円を超えている。

それぞれの分野をさらに見てみると

製薬部門の売上詳細
領域別売上

抗がん剤に特化しており6割以上を占めている。


製薬部門の地域別売上
製薬部門地域別売上


売上はアメリカがザックリ半分、4分の1が欧州で残りがその他
中国市場の比率が小さいのでこれから伸ばしていけたらまだ成長は可能


診断部門の地域別売上
地域別診断薬売上

診断薬は治療薬とは逆にアメリカより欧州で売れている。
アメリカには強力な遺伝子診断技術を持つライバルが多いので苦戦しているのかもしれない。




ロシュの歴史


hofman

1896年:フリッツ・ホフマン・ラ・ロシュが絹商人の家族の支援を得てスイスのバーゼルに設立。
「ロシュ」は創設者フリッツの妻の旧姓。痛み止め、咳止め、ジギタリス製剤、シロップを販売

orange1

1914年第一次世界大戦が起こりロシュはお互いの陣営から疑いの目を掛けられ経営が苦しくなる
1917年ロシア革命が起きてロシアにおける債権100万スイスフランを失ってしまう。
1919年会社を立て直すために株式公開して資金を集める。フリッツ・ホフマン・ラ・ロシュが300万スイスフラン分の株を購入
1924年日本ロシュの前身であるエヌ・エス・ワイ合名会社設立
1929年:世界恐慌が起こるがロシュは米国に工場を作りその結果ビタミン剤の大量生産が可能となる
plant1

1933年ビタミンCの工業的な合成に成功、ビタミン剤市場で圧倒的なシェアを握る
1956年最初のベンゾジアゼピン系の薬クロルジアゼポキシドがスターンバック博士によって発見
1960年:初のベンゾジアゼピン系であるリブリウム(一般名:クロルジアゼポキシド)を発売
1962年:抗がん剤フルオロウラシルを開発
1963年:全米大ヒットの精神安定剤ヴァリウム(一般名:ジアゼパム)を発売
valium1


1968年:ロシュが診断市場に参入する。
1973年この年のロシュの売上12億ドルのうち5億ドルがヴァリウムとリブリウム
1974年:パーキンソン病治療薬マドパーが革新的な薬としてガリアン賞を受賞

garian1
1966年中間型作用型睡眠薬ベンザリン(一般名:ニトラゼパム)を販売
1974年:精神安定剤のレキソタン(一般名:ブロマゼパム)を販売
1975年中間型作用型睡眠薬ロヒプノール(一般名:フルニトラゼパム)を販売
1976年:ジェネンテックがサンフランシスコで創業
1980年抗てんかん薬リボトリールを開発
1982年:抗生物質ロセフィンを発見
1987年ベンゾジアゼピン過剰摂取時の拮抗薬フルマゼニルも開発
1990年:ロシュホールディングスと持ち株会社となる。ジェネンテックの過半数の株式を購入 
1995年HIV治療薬で世界初プロテアーゼ阻害剤サキナビルを開発しHIV年間死亡者を半減させる。
saki

1996年インフルエンザ治療薬タミフルの販売権をギリアドサイエンシズから購入
1997年臨床診断薬の大手ベーリンガー・マンハイム・グループを傘下に
1997年:リンパ腫の治療薬としてリツキサンが米国で承認
1998年:乳癌治療薬としてハーセプチンが米国で承認
2002年中外製薬がロシュグループ傘下へ
2004年:転移性結腸・直腸癌の治療薬としてアバスチンが米国で承認
2006年:日本発のIL-6阻害薬アクテムラ発売
2009年ジェネンテックを468億ドルで完全子会社化
2016年:非小細胞肺癌治療薬として免疫チェックポイント阻害薬テセントリク発売
8787

2018年がんデータ解析専門のFlatiron Health社を 19億ドルで買収


ロシュの売上トップ5(2017年)

1位:リツキサン 【73億ドル】
リンパ腫治療薬:R-CHOP療法で生存率アップ
リツキサン


2位:ハーセプチン 【70億ドル】
乳がんと胃ガンに発現しているHER2タンパクを標的とした分子標的薬
ハーセプチン


3位:アバスチン 【66億ドル】
癌の血管新生を阻害する抗VEGF作用を有する。高血圧注意
アバスチン


4位:パージェタ 【22億ドル】
HER2受容体に結合するが結合部位がハーセプチンとは異なるので併用すると効果の上乗せが期待
パージェタ


5位:アクテムラ 【19億ドル】
関節リウマチとかで使われている抗IL-6薬、大阪大学の偉い先生と中外製薬が開発

アクテムラ




売上トップ5の売上推移

TOP5


売上上位3つのリツキサンとアバスチンとハーセプチンはもう特許が切れる。




過去に開発した主な薬(買収した会社が開発した薬含む)

アレセンサ(一般名:アレクチニブ塩酸塩):ALK陽性非小細胞肺がん
イソニアジド:結核、薬が無い昔は不治の病
セルシン(一般名:ジアゼパム):日本では武田がセルシンとして販売、注射や座薬など様々な形状
セルセプト(一般名:ミコフェノール酸モフェチル):免疫抑制剤
ゼルボラフ(一般名:ベムラフェニブ)悪性黒色腫 BRAF遺伝子変異陽性に
ゼローダ(一般名:カペシタビン):最終的にフルオロウラシルに代謝されるので副作用が少ない
ペガシス(一般名:ペグインターフェロン アルファ-2a):PEG化して長持ちにした製剤
ベンザリン(一般名:ニトラゼパム):作用時間が長め、ニトロ基がBDZに付いてて効果が強め
マドパー(一般名:レボドパ・ベンセラジド):足らないドパミンを補充するが吐き気がキツイ
ドルミカム(一般名:ミタゾラム):胃カメラ時の鎮静や末期がん患者のセデーションにも使われる
リボトリール(一般名:クロナゼパム)てんかん薬だがむずむず脚症候群とかにも
レキソタン(一般名:ブロマゼパム):マイナートランキライザーでは最高レベルの抗不安作用
レスミット(一般名:メダゼパム):肩凝りにも
ロヒプノール(一般名:フルニトラゼパム):犯罪防止のために青く着色された。昔は白い錠剤



ロシュが成長した3つの要因

・ビタミンC
2222222


ビタミンCは言うまでも無く人間にとって重要な物質。

抗酸化作用が証明されており活性酸素発生防止になる。肌のコラーゲンの生成にも使われる。
胃での鉄分吸収を還元力でピカピカにして吸収率を上昇させたりもする。

しかし人間は体内でビタミンCを生合成することができない。ビタミンCは大抵の動物が体内で合成できるのだが人間とサルはできない。犬はビタミンCを合成できる。

ビタミンCを摂取できないと壊血病になる。大航海時代に海賊が最も恐れたものは海軍でなく壊血病
船の上だとレモンやオレンジを食べられないからビタミンCが枯渇する。
なので海賊王を目指す人間はビタミンCを外部から摂取しないといけない。

そんな海賊王を目指す人間たちが待ち望んだビタミンC有機合成が成功したのは1933年
とっくの昔に海賊の時代は終わっていた

だが全人類に必要なビタミンCの商業化に成功を収めたロシュは大きな飛躍の足掛かりを得た。


・ベンゾジアゼピン

染料



それまでも安定剤や睡眠薬は存在していたがその多くは効果が強い反面副作用も激しく使い方や量を間違えると命に関わる薬が多かった、バルビツール酸系とか。

そんな中、呼吸抑制をそこまで引き起こさずにしっかり催眠作用や抗けいれん作用、抗不安作用や筋弛緩作用を持つ薬をスターンバック博士が開発した。

ユダヤ系移民であるスターンバック博士がアメリカに来る前にヨーロッパで研究していた染料の新素材の試料の一つにベンゾキサジアゼピンがありこの物質をシード化合物として化学修飾をして最初のベンゾジアゼピン系薬クロルジアゼポキシドが誕生した。

ベンゾジアゼピン系の薬が登場してもう半世紀以上となるが今でも一番処方されている安定剤
薬価も大幅に安くなりベンゾジアゼピンで大きな利益を出そうとする製薬会社は無いがロシュにとってはビタミンCに次ぐ大きな成功



・ジェネンテックの買収
genen


ロシュは2009年に468億ドルでジェネンテックを完全子会社化した。
2017年の売上TOP4の薬は全てこのジェネンテックが創成した

ジェネンテックは無毒化した大腸菌を用いて世界で初めてヒトのインスリンを開発した世界最先端の遺伝子組み換え技術を持つアメリカのバイオベンチャー

元々ロシュは遺伝子診断など分析事業に力を入れている会社でその分析技術とジェネンテックが持つ遺伝子組み換え技術という2つの組み合わせが最大限のシナジー効果を発揮している。


独り言

これまでロシュの売上3本柱であったリツキサン、アバスチン、ハーセプチンが特許切れを迎えこれからはバイオシミラーが登場する。

パージェタやアクテムラ、他にも良い薬は多数保有しているのだが上記3つの売上があまりにも大きすぎてその売り上げ減少分を補うのは難しい。なのでロシュの株価は近年低迷している。

しかしバイオシミラーの場合売り上げに対する影響は低分子化合物の後発品登場の影響よりは小さいと予想する。シミラーという名前が示すように完全に同一の物質ではない。それにバイオシミラーの薬価は、日本だと先行品の7割が基本 場合によっては更に10%程度の上乗せが可能。高額療養費制度のある日本ではバイオシミラーであっても上限に達してしまい後から返金となるので自己負担は変わらない。これから癌治療で命かけて薬を使おうというときに2,3割安くなりますって宣伝してそこまで使う人が増えるか疑問。米国だと薬剤給付会社の動向次第か

まだバイオシミラーというモノが本格的に普及していないから先発品の減少幅を予想するのが難しい。

新薬に目を向けるとテセントリクが成功すればロシュの柱になるがメルクのキイトルーダやブリストルマイヤーズスクイブのオプジーボ、アストラゼネカのデュルバルマブ (IMFINZI)と強力なライバルがいる。比較的後発組のテセントリクが存在感を示していくには他の免疫チェックポイント阻害薬との違いや有効性をこれから更に探索していくしかない。

血友病製剤のヘムライブラは革新的な薬で大きな売り上げが期待されるが血友病の分野は進化の速度が速く更に良い薬が開発される可能性もある。安泰ではない。

しかしロシュは自社開発でも買収においても数十年先を見据えた戦略を取る
数年間の業績で右往左往するような会社ではない。

買収戦略だとロシュは売上規模拡大に主眼を置くファイザーや武田とは違い買収する時に相手の会社との関係や自社商品と買収先商品とのシナジー効果を重視する。傘下の中外製薬やジェネンテックもいきなり会社を丸ごと吸収するのではなくまずは筆頭株主となりじっくり関係性を深めていった。

そうして最終的に完全子会社したジェネンテックはロシュに大きな成果をもたらした。
中外製薬にしてもアクテムラなどロシュにとっては大きな成功。





これからの製薬会社が強化すべき領域は癌領域。
そして癌種それぞれにおいての特徴を高い分析診断技術を用いて研究開発を行いさらに臨床の現場でも患者さん一人ひとりの遺伝子診断を行い最も効果的な治療法を選んでいく時代になる

その時に世界の最先端にいる企業がロシュ

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ
にほんブログ村