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多発性硬化症は日本より欧米の方が人口比で少ない。
しかし日本にも1万人以上の患者がいる厚生労働省指定の特定疾患

以前はインターフェロンを中心とした治療だったが世界で初めて経口投与できるこのイムセラが作られ患者さんの負担が大幅に減った。そしてこの画期的な薬の開発を中心的に行ったのは日本人。

京都大学の藤多哲朗教授と菌の培養に実績のある台糖、現田辺三菱製薬子会社の吉富製薬が連携した結果フィンゴモリドという化合物がこの世に誕生した。開発コードネームFTY720のFは藤多、Tは台糖、Yは吉富製薬の頭文字

途中からノバルティスも開発に参加
なので田辺三菱製薬からは商品名イムセラ、ノバルティスからは商品名ジレニアでそれぞれ販売されているが全く同じモノで薬価も同じ。




一般名:フィンゴリモド
商品名の由来:Immuno(免疫),Therapy(治療)より
薬価:8124.7円




多発性硬化症とは?

中枢神経系の自己免疫疾患
脳や脊髄、視神経に障害が起こる。その結果感覚異常、運動障害、視神経炎といった症状が出現。

本来は自分の細胞に反応しないはずのリンパ球がミエリン鞘を含む中枢神経組織を攻撃してしまう免疫疾患。なぜ免疫が自己の細胞を攻撃するのかは今も不明だがリンパ球やインターロイキン17といった免疫物質を抑えると多発性硬化症が改善することが分かってきた。その免疫を抑えるのがこのイムセラ

MSの病型は,再発寛解型,一次進行型,二次進行型などに分類されるが再発を繰り返すことにより進行型に移行するので再発させないことが重要、イムセラは再発寛解型に使われ進行型には薬効が証明されていない。


開発経緯
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古来中国から使われている秘薬の冬虫夏草、現代でも滋養強壮剤や様々な用途に使われている
その成分は蛾の幼虫に寄生するキノコである。

そのキノコが産生する物質の一つマイリオシンから開発が始まった。

人間に限らず動物には免疫システムが存在する。寄生される蛾にも免疫があるのになぜ免疫システムで排除されないのか、もしかしたら免疫を抑制する物質を冬虫夏草が作っているのではないかとの発想で研究開発が始まった。

マイリオシンはそれ以前からも知られていた物質で抗真菌作用を持つと判明していたが免疫抑制作用は知られておらず新たな発見となった。
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マイリオシンという物質は毒性が高く、構造式的にも不斉炭素を3つ持つなど化学合成が難しいのでそこから何段階も化学修飾してやっとこさ完成したのがイムセラ

ベンゼン環を挿入するとかすごい発想、ベンゼン自体は人体に有毒なのにベンゼン環を入れると毒性が大きく減少するという面白さ



効能又は効果

多発性硬化症の再発予防及び身体的障害の進行抑制

進行型には無効であるとの海外でのデータも


用法及び用量

成人にはフィンゴリモドとして 1 日 1 回0.5mgを経 口投与

1日0.5mgとそれ以上を比べても治療効果に上昇は見られない。なので1日1回0.5mg




薬理作用

フィンゴモリドはスフィンゴシンキナーゼによりリン酸化を受けフィンゴモリド-Pとなりスフィンゴシン1-リン酸受容体(S1P1受容体)に作用し、この受容体の機能を阻害することによりリンパ球をリンパ節に封じ込め末梢血リンパ球を減少させる。

多発性硬化症はリンパ球が自己の細胞を攻撃してしまうことによる自傷行為、なのでその自傷行為をするリンパ球を減らせばいいという発想。リンパ組織からリンパ液中へリンパ球が出ていくためにはリン脂質メディエーターであるスフィンゴシン 1-リン酸受容体への刺激が必要となっている。

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構造式を見比べると分かりやすいが皮膚に存在するセラミドから作られるスフィンゴシンはフィンゴモリドとそっくりの構造式をしている。なのでスフィンゴシンの代わりにこのイムセラがS1P1受容体に作用してリンパ球が出ていくのを防ぐ。

このS1P1に結合するにはフィンゴモリドそのものでなくリン酸化された構造が必須である。つまりフィンゴモリドはプロドラッグということになる。

そのリン酸化されたフィンゴリモド- P には光学異性体が存在し薬理活性を有するのはS体



イムセラの臨床成績
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脳病変の無い患者の割合は半年服用後で偽薬が5割にイムセラが8割と統計学的に有意
1.25mgと5mgを比較すると差はない。

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再発を抑制する効果を比較すると偽薬に対して3割以上上乗せ効果がある。
ここでも1.25mgと5mgで差はない。


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それまで最善の治療であったインターフェロンに対して優位な再発抑制作用をイムセラは持つ。
そして0.5mgと1.25mgで効果に差は無い。0.5mgで8000円もする高価な薬。無意味な増量は保険適用的に認められない。



副作用

国内臨床試験
本剤 1 日 1 回0.5又は1.25mg を投与された161例中140例(87.0%)に副作用が認められた。

主な副作用は肝機能検査値異常50例(31.1%), 鼻咽頭炎45例(28.0%), 徐脈18例(11.2%),白血球減少16例(9.9%)

イムセラに特徴的な副作用
①徐脈性不整脈
②感染症
③黄斑浮腫
④肝機能障害



①徐脈性不整脈
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イムセラを服用するとその数時間後から心拍数が減少する副作用がある。
服用して1時間もすれば減少が始まる

よってイムセラを初めて服用する場合は病院で医師が患者さんのバイタルを常にモニタリング
そして服用後6時間後に以下の基準を満たせば病院から帰宅することができる。

帰宅可能基準
・帰宅時の脈拍数は、投与前の脈拍数の80%を超えていること。
・帰宅時の脈拍数は、観察期間中に測定した値より回復傾向がみられること。
・帰宅時に、徐脈性不整脈に関連する臨床症状(浮動性めまい、疲労、動悸等)がみられないこと。



なぜイムセラが心拍数減少を引き起こすのかというとスフィンゴシン 1-リン酸は心拍数低下作用を有するリン脂質。心臓の洞房結節にあるS1P受容体を介してS1Pと同じ心拍数低下作用を示す。構造が似ているイムセラも類似の作用を示す。





②感染症

免疫システムにおいて重要な存在のリンパ球を減らすわけだから感染症リスクが上がるのは自然。
鼻咽頭炎は細菌がリンパ球の減少により活発化させて出現していると思われる。

イムセラ服用開始2週間でリンパ球数はベースラインから7割減少する。

イムセラの半減期は長く完全に体から消失するまで二カ月以上かかる場合がある。リンパ球数が正常範囲内に回復するにも1~2カ月必要。
ステロイドパルス療法など免疫を抑制する治療と併用するときは慎重に


③黄斑浮腫

海外臨床試験における黄斑浮腫の発現率はイムセラ0.5mg群で0.2%(2/854例)、1.25mg群で1.4%
初期は自覚症状が無いので定期的な眼底検査を受けることが望ましい。
糖尿病かブドウ膜炎の既往歴がある患者さんではそのリスクが増大する。



④肝機能障害
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10人中3人は肝機能数値に影響が生じる。
臨床症状が現れるほど数値が上昇したら服用中止



体内動態

フィンゴリモドの血中未変化体濃度
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半減期は約一週間とかなり長い


併用禁忌

生ワクチン(乾燥弱毒生麻しんワクチン, 弱毒生風しんワクチン, 生ポリオワクチン,乾燥BCG 等)
クラスⅠa 抗不整脈剤(キニジン、プロカイン等)
クラスⅢ抗不整脈剤(アミオダロン、ソタロール、ニフェカラント)


心拍数に影響を与える薬は気を付けよう。禁忌でなくともβ遮断薬とかCa拮抗薬でも心臓選択性が高いワソランやヘルベッサーとかにも注意。



代謝酵素

CYP4F

CYP4Fは代謝酵素としてメジャーでない
ビタミンEの代謝に使われたりする。この代謝酵素が原因の併用禁忌や注意は無い。



妊娠期間中のリスク

イムセラは妊娠中服用してはいけない。
催奇形性を示唆する試験結果がある。S1P1受容体は、胚発生中の血管形成に関与している。
授乳中も安全が確認されていないので避ける。

薬が完全に抜ける二カ月はそもそも避妊する必要がある。

 


独り言

リード化合物は難溶性だったが化学的な工夫をして経口摂取可能であり毒性も大幅に減らした化合物フィンゴモリドが誕生した。多発性硬化症の市場は日本より欧米の方が日本より大きく田辺三菱製薬が単独で世界展開するには無理があるので途中からスイスの製薬会社ノバルティスに導出し共同で臨床開発行った。しかしフィンゴモリドという物質は日本人研究者の努力により誕生した。免疫抑制剤として使われているプログラフも日本人研究者がこれまた菌から見つけて薬に昇華させた。スタチン系もそうだし日本人は菌との付き合いからが上手い。


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